第3幕の連載05で属人化をほどく考え方を見ました。ここからは部門別に「何にAIが効くか」を、職種ごとの実証で具体化します。1本目は営業です。
- 営業の最大コストは「売る前の事務」。AIはまずリサーチとフォローメール下書きに効く
- 売上が伸びる経路はコンバージョン改善。ただし効果は業務により幅がある
- 関係構築・交渉・信頼形成は人が握る。AIは前さばきと後処理
営業の時間は「売る以外」に消えている
営業の生産性を上げる急所は、商談スキルではありません。商談以外の事務作業です。Salesforceが営業4,050人を調べた調査では、AIエージェントの導入で見込み客リサーチの時間を34%、メール下書きを36%削減できると営業職自身が見込んでいます。すでに54%が利用し、2027年までに9割近くが使う見込みです。
つまり最初に入れるべきは、最も時間を食う「リサーチ」と「フォローメール下書き」。ここから始めるのが最短距離です。
AIに渡せるのは「3工程」——リサーチ・初稿・商談後処理
McKinseyは、営業でAIが効く工程を具体的に特定しています。①商談準備(リサーチ)②アウトリーチの初稿 ③商談後の要約・CRM更新。とくに重い準備工程ほど削減幅が大きく、ある通信事業者では「10時間以上かかっていたアカウントプラン作成を数分に短縮」しました。
| 工程 | AIに渡す | 人が握る |
|---|---|---|
| 商談前 | 企業リサーチ・提案たたき台 | 誰に・何を売るかの戦略 |
| 商談中 | (人が主役) | 関係構築・交渉・信頼形成 |
| 商談後 | 議事録要約・お礼メール・CRM入力 | 次の一手の判断 |
ただし「AIを入れれば売上が全部伸びる」は誤りです。Columbia大の大規模EC実験では、売上効果は業務により「検出不能〜+16.3%」と大きな幅がありました(最大効果は購入前の問い合わせ対応で、コンバージョン率+21.7%)。効く業務を見極めることが本質で、一律導入は禁物です。
営業の本質は不変——だから人が握る
では、AIに渡してはいけないものは何か。営業の本質そのものです。McKinseyはこう述べます。
営業職に求められる本質——信頼に基づく関係を築くこと、顧客に価値を生む機会を見つけること、摩擦の少ない体験を作ること——は、時代を通じて変わっていない。
(McKinsey「An unconstrained future」2024)
AIはリサーチ・初稿・フォローを担い、関係構築・交渉・最終的な信頼形成は人が握る。この分業が理想です。空いた時間を、AIで削った事務でなく「顧客との関係」に振り向けられるかが、勝敗を分けます。
最初に任せる1業務:フォローメールの下書き。毎日発生し、時間を食い、型がある。コピペ例:
「あなたは法人営業の担当です。次の商談メモをもとに、お礼と次回提案につなげるフォローメールを150字で作成してください。商談メモ:(貼る)/トーン:丁寧だが堅すぎない」
商談前→中→後のフローで、各工程の「AIに渡す/人が握る」を色分け。商談中(関係構築・交渉)を人の領域として強調。脇に「リサーチ-34%・メール-36%」「アカウントプラン10時間→数分」の実証バッジ。
まとめ
- 営業の最大コストは「売る前の事務」。AIはまずリサーチとフォローメール下書きから。
- AIに渡せるのはリサーチ・初稿・商談後処理の3工程。効果は業務により幅があるので見極める。
- 関係構築・交渉・信頼形成は人が握る。空いた時間を顧客との関係に回す。