前回、AIを経営判断の壁打ち相手に使う方法を見ました。今回は経営者自身のもう一つの武器——「数字を読み解く」です。社内にデータ担当がいない中小企業でも、経営者本人がデータを触れる時代になりました。ただし、ひとつだけ絶対の鉄則があります。
- ChatGPTは裏でプログラムを書いて表を集計・グラフ化する。経営者本人が数字を触れる
- ただし財務の数字は「年間と四半期を混ぜる」「土台を取り違える」壊れ方をする
- 鉄則:単位と期間を必ず添え、結論のうち一つは人が電卓で当てる
データ担当がいなくても、経営者が数字を触れる
「うちにはデータ分析できる人がいない」——その壁が、下がりました。ChatGPTの「データ分析(Advanced Data Analysis)」機能は、裏でプログラム(Python)を書いて実行し、アップロードした表を集計・グラフ化します。OpenAIの公式説明はこうです。
一部のデータ分析タスクでは、ChatGPTは状態を保持するプログラム実行環境の中で、Pythonコードを書いて実行する。
(OpenAI 公式ヘルプ「Data analysis with ChatGPT」)
つまり、経営者が売上Excelをアップして「商品別・月別の売上を集計して、伸びている商品と落ちている商品を教えて」と頑むだけでいい。コードは一行も書きません。専門のアナリストがいなくても、経営者本人がデータ分析の第一歩を踏める——これが「データ分析の民主化」です。
大事なのは、これが普通の文章生成と違う点。裏で実際に計算が走るので、単なる”それっぽい文章”より数字に強い。ここが次の注意点の伏線になります。
ただし「計算そのものを間違える」——数値ハルシネーション
ここが今回の核心です。AIは数字を扱えますが、「計算式の組み立て自体を、堂々と間違える」ことがあります。これを数値ハルシネーションと呼びます。財務データを評価した学術研究は、こう警告します。
表データからの正確な抽出と精密な計算は、信頼できる財務分析に不可欠だ。わずかな数値の誤りでも、意思決定や法令順守を損ないかねないからだ。
(FAITH論文, arXiv 2025)
具体的な壊れ方も報告されています。LLMは「年間(通期)の数字と四半期の数字を、同じ計算の中で混ぜて使う」「土台の数字を取り違えて、そこから導いた比率が全部ずれる」。経営者がやりがちな「この粗利率、合ってる?」という確認で、もっともらしく間違った答えが返ってくる危険があるのです。
第1幕で見たとおり、AIは「自信たっぷりに間違える」。数字ではそれが致命傷になります。経営判断の土台となる数字を、AIの出力のまま鴩呑みにしてはいけません。AIは下書き・たたき台。最終的な数字は人が照合します。
鉄則:単位と期間を添え、結論は人が電卓で当てる
では、どう安全に使うか。鉄則は2つです。
- 単位と期間を必ず添える 「年か四半期か」「税込か税抜か」「千円か円か」を明示してデータを渡す。混ぜる事故の多くは、これで防げます。
- 結論のうち一つは、自分で電卓を叩く AIが出した数字を全部は検算できなくても、最終結論に効く一つ(例:粗利率、前年比)だけは、人が電卓で当てる。ここが「人が握る」最後の砦です。
数字の読み解きプロンプト例:
「添付は当社の月別売上です(単位:千円・税抜・2024年1〜12月)。①商品別・月別に集計し、②前年同月比で伸び/落ちている商品を上位5つずつ、③その要因の仮説を3つ。計算過程も示し、使った数字の期間と単位を明記してください。」
——連載03の「考える過程を書かせる」と同じ。過程を出させれば検算できます。
左「AIに任せる=集計・グラフ化・要因の仮説出し(裏でコード実行)」、右「人が握る=単位/期間の指定・最終結論の検算」。中央に警告「年/四半期混在・土台取り違えで比率全崩れ」。下に鉄則「単位と期間を添え、結論は電卓で当てる」。
まとめ
- ChatGPTは裏でプログラムを実行し集計・グラフ化。経営者本人が数字を触れる。
- ただし計算そのものを間違える(年/四半期混在・土台取り違え)。鴩呑み禁止。
- 鉄則は「単位と期間を添える」「結論の一つは電卓で当てる」。過程を出させれば検算できる。