導入・定着

「使わない人」を責めない。抵抗と不安をほどく

従業員はAIを「拒んで」いない、「隠れて使って」いる——知識労働者の78%が自前AIを持ち込み、53%が「使うと自分が要らなく見える」と恐れています。禁止すると会社のノウハウが地下に潜るだけ。抵抗の正体は恐怖であり、ほどく鍵は罰でなく安心の設計です。

2026年 6月 30日 約5分で読めます
yamaryou0920 AI仕事ラボ編集部
導入・定着

「ベテランがAIを嫌がる」「若手は使っているらしいが、何をどう使っているのか見えない」「下手に推進すると、現場が身構えてしまう」——。AI定着でいちばん悩ましいのが、この“人の気持ち”の部分です。この記事では、抵抗や不安の正体と、それを責めずにほどく考え方を、海外データから整理します。最初に、通説をひっくり返すところから始めます。

✦ この記事の要点
  • 従業員はAIを拒んでいない。すでに「隠れて使って」いる
  • 隠す理由は「使うと自分が要らなく見える」恐怖(53%)
  • 禁止は逆効果。ほどく鍵は罰でなく「安心」の設計

従業員は「拒んで」いない、「隠れて使って」いる

「うちの社員はAIに抵抗している」——多くの経営者がそう感じます。ところが、世界31カ国・3万人超を対象にしたマイクロソフトの調査は、まったく逆の姿を映し出しました。

知識労働者の75%が、すでに仕事でAIを使っている。そのうち78%は、会社が用意していない「自前のAI」を持ち込んで使っている。
(Microsoft / LinkedIn「Work Trend Index 2024」31カ国31,000人)

つまり現場は、抵抗して「使わない」のではありません。多くがもう使っていて、しかも会社に内緒で、個人のChatGPTなどをこっそり使っているのです。ウォートン校のイーサン・モリック教授は、こうした人たちを「隠れAI使い(secret cyborgs)」と名づけました。問題は「使われていないこと」ではなく、「使われているのに見えないこと」なのです。

なぜ隠すのか——理由は「恐怖」

では、なぜ隠すのでしょうか。便利なら、堂々と共有すればいい。そうならない理由を、同じ調査がはっきり示しています。

AIを使う人の52%が、最も重要な仕事でAIを使ったと認めたがらない。53%が「重要な仕事にAIを使うと、自分が(簡単に)替えのきく人間に見えてしまう」と心配している。
(Microsoft / LinkedIn「Work Trend Index 2024」)

核心はここです。「効率化を見せたら、自分の仕事が削られるのではないか」という恐怖。この恐怖がある限り、現場は成果を隠します。考えてみれば当然で、「AIに仕事を奪われる」という不安が消えていない職場で、「私はAIで仕事を半分に減らしました」と正直に言える人は多くありません。モリックも、隠す理由を「生産性が上がったと見せると、解雇や処罰をされると恐れるから」だと指摘しています。抵抗の正体は、わがままでも怠慢でもなく、恐怖なのです。

禁止すると、会社のノウハウが地下に潜る

ここで「だったら個人AIは禁止だ」と考えると、事態は悪化します。モリックの警告は明快です。

多くの組織は、悪い使い方ばかりに目を向けた複雑なルールを作る。その結果、従業員は自分のAIの使い方を話すのも、会社のAIを使うのも怖くなる。彼らはただ「隠れAI使い」になり、自前のAIをこっそり使い、その知見を誰とも共有しないままになる。
(Ethan Mollick, 2024年)

禁止は二重の損失を生みます。①使うのをやめさせられない——多くは隠れて使い続け、ただ見えなくなるだけ。②せっかくの工夫が共有されない——第3幕で見た「属人化」と同じで、一人が見つけた便利な使い方が、その人の中だけで眠り、会社の資産になりません。禁止は、漏えいも非効率も止められないまま、学びだけを地下に埋めてしまうのです。

ほどく鍵は、罰でなく「安心」の設計

では、どうほどくか。答えは、恐怖の反対側にあります。「AIで効率化しても、あなたの仕事は奪わない。空いた時間で、より価値のある仕事をしてほしい」——この約束を、経営者が言葉と行動で示すことです。専門的には「心理的安全性」と呼びますが、要は「AIを使っています、と堂々と言っても、損も罰もされない空気」をつくること。

具体的には、3つです。①使ってよいと明言する(お墨付き)。②うまく使った人を責めず、むしろ褒める・報いる(評価とインセンティブ)。③取り残される人を作らない——得意な人だけでなく、苦手な人にも手取り足取り教える場を用意する。一度試して「使えない」とやめてしまう人の多くは、能力ではなく、安心して聞ける場がなかっただけ、ということも少なくありません。なお、安心とルール無用は別物です。何を入れてよく何がダメかの最小ルールは、現場を守るためにこそ必要で、これは第6幕で扱ったとおりです。

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抵抗を「気合いで突破する」のではなく、恐怖の発生源(仕事を奪われる不安)を一つずつ取り除く。それが、隠れた活用を表に出す唯一の道です。表に出てきた工夫は、もう一人のものではありません。次回は、その「一人の成功を、どうやって全社の力に変えるか(横展開)」を扱い、この連載を締めくくります。

図解:抵抗の正体は「恐怖」

左に現状「78%が自前AIを持ち込み/52%が利用を隠す/53%が“替えがきく人に見える”恐怖」。中央に分岐。上ルート「禁止→地下化(使い続ける・知見は共有されない)=二重の損失」。下ルート「安心の設計(仕事は奪わない宣言+褒める・報いる+取り残さない)→表に出る→全社の資産へ」。

まとめ

  1. 従業員は拒んでいない。78%が自前AIを持ち込み、隠れて使っている
  2. 隠す理由は「使うと自分が要らなく見える」恐怖。禁止すると知見が地下に潜る。
  3. ほどく鍵は罰でなく安心の設計(仕事は奪わない宣言・褒めて報いる・取り残さない)。